無題

しばたたく乾いた目と、空っぽの胃
本日の倦怠と明日への憂鬱をもてあまし、
ぬぎすてた紫紺のセェラァを、しろい足先が踏みつける

「せんせい」

小首をかしげるしぐさとともにやわらかな髪がさらりとすべった

「せんせい、」

つりさがった橙色の電球に照らされる部屋は明るくて清潔感にあふれている
90年代のポップスがなにかのウィルスのように部屋中をゆうるりと漂っている

「きょうの晩御飯はグラタンにしましょうね」

彼女が後ろから抱きしめるようにしなだれかかってくる
細っこい両腕が僕の顔をそっと抱きかかえる、髪とにおいとあまりのやわらかさにひどくめまいがする

「せんせい、ね、ちょうだいな」

耳元でささやくのは反則であり極めて下劣な行為であると思うが、結局僕はまた負けてしまい
明日のテストの答案を彼女に差し出すのだった



あどけない取引