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右腕にモンシロチョウのタトゥーをしたおんなは、
写真家の彼と昨夜別れたばかりで、未だしんぞうの傷が癒えず、
飼っている青猫の好物であるジンジャーティーを淹れるために、やかんをコンロにかけたりしていても、
彼とすごしたある冬の午後の、
古本屋で安く買ってきた黄ばんだ百科事典を繰る音や、
なまぬるいカイロを指先でもみつぶす感触を、
彼とのエキゾチックなキスのあじとともに思い出してしまって、
左肘のうちがわの、やわらかくて弱いはだのところに、
あたらしい模様を一刻も早く刻み込んでしまおうと決意した。

そうして、ようやくほろほろ泣いたので、
青猫はただひとりのさびしい女主人を、なぐさめてやろうとも思ったのだが、
じぶんの鳴声は彼女にはただのニャアであることもしっていたので、
あきらめて、そうそうに寝た。

おんなはせっかく沸かしたお湯がただのみずになるまで、ほろほろ泣き続けた。

そのころ写真家の男は、
暗室でもくもくと、一葉の写真を現像していて、
昨夜別れたばかりの彼女におくるはずだったその写真がしあがってくると、
ろくに確認もせずに、くるくると丸めて、洗いざらしたジーンズの右ポケットに押し込み、
寝室の押入れの奥から、寄宿舎じだいのタック・ボックスを引っ張り出してきて、
そのはじっこに収められていた、あおい名前のしらない蝶々の標本をつまみあげて、
その翅の左右をそっと引き千切ったときに、ぽつぽつと水滴がふってきて、
そこでようやく、じぶんが泣いていることに気がついた。


こたつの上でまるくなっていた青猫は、ちょっと特別であったので、
そのようすを全部夢のなかでみていて、ある男女のかなしい別れについてまるごと把握していたので、
「未だ間に合うよ」の意をこめて、ひと声ふた声鳴いたのだが、
やっぱり、女主人は、ニャアとしか聞き取れなくて、
東洋人特有のあいまいな笑い方をしながら、
「ジンジャーティーあたためよう」と、見当ちがいなことを云った。
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