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電気のついていない生物室は薄暗くも、昼下がりの陽光を窓からたっぷり取り込んで明るくもあった。黒い実験机の上に四角く切り取られた光が投げかけられている。人気のないそこは授業時の喧騒とは程遠く、学校とは思えないほどにしんと静まり返っていた。
外からはかすかに生徒たちのはしゃぐ声が聞こえてくる。
とりわけ明るい窓際には汚れの蓄積された水道があり、コケのこびりついた水槽やフラスコやビーカー、黒く焦げ付いたマッチ棒、しなびた水草の束などが乱雑に積み上げられていた。ほんと、整理しないんだから、先生。
土っぽい、湿ったにおいに誘われて、わたしは窓際に近寄っていった。水道の上の平らになっているスペースには、くすんでいたりへんなかたちをしていたり、まるで可愛げのない植物たちが大量に栽培されている。花屋さんのかぐわしい香りとは違う、ホームセンターの園芸コーナーみたいなしっとり濡れた土のにおいが、湿っぽく濃厚に、漂っている。実験用の植物なのだろうが、それにしても、かわいくない。きれいじゃない。「かがやかしい生命力」というより「耐え忍んで生き永らえる」、といった感じの日陰の植物だ。地味。
こんな地味~な植物を、女生徒に大人気の華やか~な先生がちまちま栽培してるんだって思うと、笑えた。
そのときキィィ……とかすかな音をたてて生物準備室のドアが開き、先生が入って来た。清潔な白衣が日に照らされてまぶしい。
「先生」
「お、早いね。感心、感心」
ポケットに両手をつっこんで先生は笑う。それから「翳ってて肌寒いな」、と洩らしたので「日なたはあたたかいですよ」と誘ってみた。そうしたら先生は意外にも寄ってきてわたしの隣に立った。わたしはせいのびしないと見下ろせない植物たちを、先生は何気なく突っ立ったまま見渡せるんだって気づいた。
「おー、育ってんなー」
「え、……これで育ってるんですか」
「なに言ってんだ、すくすくだぞコラ。元気いっぱいだっつーの」
「だって、これ、地味だし」
「はい罰則ー。水やりしといて」
わたしがあげた驚きの声を無視して先生は黒板のほうへ行ってしまった。白衣のすそが翻るのをうらめしく見やりつつ、でも先生に頼みごとをされたのは嬉しいので、わたしは水道のがらくた(に見える)山から安っぽいプラスチックの黄色いじょうろをひっぱりだした。
「そうだ、双海。なんか好きな魚言ってみろ」
「え? 魚ですか?」
「そう、魚」
蛇口をひねり、じょうろに水をためながら、わたしはちょっと迷ったのち「まぐろ?」と答えた。そうしたら一瞬沈黙があって、呆れたような声で、
「ばか、そっちの魚じゃない、そりゃ寿司だろうが! 俺がいってんのは水槽で飼うような魚だよ!」
「えぇ!? そんなの、いきなり魚とか言われたらわかりませんよ!」
「ほんっと、ずれてんな、双海は」
「ええええ……」
恥ずかしさに俯く。と、じょうろに水が溜まりすぎているのが目に入った。あわてて水を止め、苦労して持ち上げようとすると、先生に「こっち」と呼ばれた。いつのまにか準備室のなかに移動している。入り口に寄って行ってそうっと中をのぞくと(生徒の入室は禁止されている)、先生は「特別な」と言って中に入れてくれた。
「これ、」
うれしくてうれしくてにやつきそうになる顔を抑え込んで、先生が指差すほうを見た。そこにはおおきくて空っぽの水槽があった。わたしが両手を広げたぐらいもあって、そうとう磨いたのか、新品とまではいかないけれどぴかぴかにかがやいている。向こうの景色がはっきりと透けて、硝子の宝箱みたい。
「育ててたメダカな、別の水槽にうつしたんだよ。そしたら空いたんだけどな、ほかに飼う予定の魚もないし」
「そうなんですか」
「だから、水やりのごほうび。双海の好きな魚いれてやる」
その代わり、これから毎回授業前には水やりしろよ。と先生は付け足した。わたしがなにか言う前に昼休み終了を告げるチャイムが鳴り響いて、どやどやとクラスメートたちが入って来た。わたしは自然と準備室を追い出され、ぽーっと上の空のまま授業を受けた。ちょっとはやく来てみて良かった、と心から思った。
放課後、わたしはすぐに図書室に駆け込み、おもたい熱帯魚図鑑をひらいた。
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昨夜未明の真空の森で君が白旗をあげたのを見た気がした 僕はそれが見えないふりをした 僕はまだ巻かれていたかった、ながくて、やわらかくて、反吐の出るような強大なつながりに ベッドの下隠れた、生き残りの子供は 今夜も冷えた手で大人のために絵本を開く



なんだか感慨深い夜です
これからもお世話になります

かなしいことというのは、きっともう絶えることはない
絶えたらそれはそれで不安に駆られるだろう
でもかなしいことはいつも巨大じゃない、すごくちっぽけですぐ忘れられることもある
そういう日々が来る

昨日を経て今日が続き明日が来るってすごく普遍的で絶対的で容赦がなくてそれゆえに安定的な流れだ。なにもかもを怒涛のように飲み込んでごっちゃごちゃのばっきばきになりながら濁流のように町中を蹂躙する。そしてまたつぎの町へと奔流する。それはきっと遠くから見たらうつくしい流れなのだろう。

足りなくて、焦がれて、何度でも泣いて、
いつも満たされなくて、明日が来るのが嫌で、今日が続くのが嫌で、昨日を引きずるのが嫌で、どこにいていいかわからなくて、何をしていればいいかわからなくて、迷って、悲しんで、恨んで、呪って、泣きじゃくりながらくるまった毛布のなかにやわらかい光がさして、月曜日の東京の朝が来る。それはすごく始まりに満ちている。まっすぐでまっしろで、眩しくて輝かしい光だ。朝日がガラス張りのビル郡と赤いタワーを照らし出して、せわしない人の流れが薄汚れた歩道を踏みしめる。今日も誰かがわたしの好きな音楽を聞いている。今日もこの世界のどこかで新しい音楽が、ことばが、物語が、とりとめもない世界が、生まれている。それはいつかめぐりめぐって日曜日の東京の夜の片隅にまでやってきて、目覚まし時計のベルをたて琴のように心地よく鳴らす。朝が来て、いくつものかなしみを嚥下した人々が、すこしずつ大人になりながら、社会へ向う。人と対話することは苦しさをともなう。できないことに立ち向うときひどい羞恥におそわれて俯く。そうして帰り道とけていく青空の傾いた光に微笑んで、すべてをなんとか飲み込んで明日が来る。
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