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嫌いになれないなんて不幸だ
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おねーちゃんが化粧水をぱんぱんってパッティングする音がちょうど聴いていた曲の手拍子に聞こえてライブにいきたくなった。バスドラのキックに合わせて二回、ぱんぱんって挟むのがいい。いいよね。
ライブは、娯楽だ。噛んでいたガムを吐き出してわたしは時計を見た。日付は変わろうとしていた。
携帯を開くとメールが三件、でもメーリスと広告とツイッターのフォロー通知でしぬほどどうでもよかった。まだしにたかぁないけど。はやく来い来い、連絡来い。
日付が変わった。五月が来た。ゴールデン・ウィークは間近。デートの約束が三つある。だけどそのまえに、わたしと彼は別れるかもしれない。

はやく恋い恋い。はやく叱って。今日キスしてたの誰って問い詰めて。

しようがないから勉強でもしてやろうと思ってテキストを開いた。放課後、補習と称してふたりきりでいるときに教わった範囲を復習しようと、ノートをさかのぼっていく。そして気づいた。これ、どっかで見た。
ベッドに放り投げていた携帯を掴みあげてツイッターを開き、フォロワー一覧を見る。一番上に鎮座する見慣れた猫のアイコンにふざけた名前。
三年になって一回目の面談で、放課後の、しんとした教室の真ん中で、向かい合わせた机に座って、めのまえには先生がいた。白衣を着た彼は、担任になるまでは面識がなかった。担当教科は化学で、化学はうつくしい学問だからわたしは好きだった。
春の嵐が吹き荒れて教室の窓をなんども、なんども揺らした。水滴のついた窓硝子の向こうで、白いハナミズキが濡れそぼっていたのをよく覚えている。
「もう高校生活も最後だから、なにかやり残したことがあれば今のうちにやりきってしまいなさい」と先生はなんだか無責任なことをいった。わたしはそのときすごく沈んでいた。特になにがあったというわけではなく、たんじゅんに、ものすごく、ずーんとした気分だった。春だからだ。雨の日の春はなんだかゆううつになるもんだ。だって、環境がすごく変わるし、知らぬ間にいろんなストレスがつり積もっているのかもしれない。あと、バイオリズムがどうとかで。
ともかくひどく無気力だったから、わたしは笑顔ではいって返事することができなかった。先生は先生でさっきから「腹減ってるから早く」なんてうるさいし。
苛立ちにも似た、投げやりな気持ちに支配されて、わたしは背もたれにだらしなくしなだれかかって、口の中のレモンキャンディを転がした。
「なんかあんの?」
「先生、わたし」
口を開いたらレモンのにおいがほんのり香った。
「恋がしたいです」
――バンッと音を立てて窓硝子が揺れた。はげしい突風が木々を揺らし、ハナミズキの頼りない枝がしなって花びらが数枚落ちた。口の中でキャンディがカランと音をたてた。
ふっと視界がかげって、身を乗り出した先生の白衣の向こうで、水滴がつるりと窓をすべるのが見えた。カラン。右頬に少しだけ熱を感じた瞬間、わたしの唇はふさがれた。カラン。ぼんやり飴を転がすわたしの舌は、先生のそれにからめとられて、すぐさま、そうっと離された。レモンのキャンディは先生にうばわれてしまった。
頬に触れさせた指先をゆっくり離しながら、先生はすごくせつなそうな顔をしてこっちを見ていた。「……に、するんですか」じっとわたしを見つめる目はいまにも泣き出しそうなほど揺れていて、すごくすごくつらそうだった。
「だって、おまえ……」
雨はザアザアふりつづけ、ハナミズキはふらふら揺れて、春の嵐はわたしと先生をこのせまい教室に閉じ込める。
「レモンのにおいがするから……」
夢を見ているような気分だった。死ぬほどくだらない夢を。
レモンって、なにそれ、そんなの言い訳にならないし。けど、先生、お腹空いてるっていってたしなあ。ファーストキスをうばわれたにもかかわらずうまく思考が回らないわたしの向かい側に立って、先生はいった。
「してみる? 俺と」
わたしにキスをくれた先生の唇のおくで、赤い舌がレモンキャンディを転がすのが見えた。
「恋」
あまりにもくだらない台詞にわたしはただ呆然と座っていた。どこの乙女ゲームだよ。
だけどしだいに鼻の奥がツーンとしてきて、やがてわたしは泣き出した。ほろほろほろほろ、涙が零れた。ううー、ううー、となさけないうめき声を漏らしながら、わたしは泣いた。五月雨のようにさめざめと、泣いた。それから、先生が「あーもうわかったから好い加減にしろ」っていいながら頭をなでてくれるまで、延々と泣き続けた。ずっとこうしたかったのかもしれなかった。
「お金なんかなくてもいいから」
「ヒモが、欲しいのです」
「どうしようもない男だけど」
「どうしようもなく、欲しいのです」
いちばんいいたかったことを、誰かに聞いて欲しくて、だけど誰にもいえなかったことを、とうとうわたしは口に出すことができなかった。この千載一遇唯一無二のチャンスをのがしてから、死ぬまで。一度も。わたしはこのしぬほどくだらないけど喉から手が出るほどの渇望を、墓場までつれていって、浄化されて土にかえって地球の一環になって、何年かあとの春の雨の日に、訳が分からないほどゆううつになった女の子の涙になってやるのだ。
読んでみようかなって思った。それは、勇気なんだ。

もし明日ミサイルがくるんなら、下北沢シェルターに退避したい。

毎日ものすごい数のバンドが生まれては消えている。ひとつひとつの曲が全力で、痛い思いをしながらなんとか生み出しているのに、泡みたいに浮かんで、消えて、ぱちぱちぱちぱち。一生かかっても追いきれない。だけど一生好きでいたい。


携帯見ながら夜道歩いてたから足元に散りだまった花びらで桜の木があるなって気づいたんだ。見上げたら曇った空がおどろくほど明るくて、夜は闇にぼやける建物の輪郭がくっきり見えた。けれど道の先はいつもどおり暗くて、街灯の光のもと濡れた地面が光っていた。ちゃんと夜なのに見上げれば明るい、奇妙だった。小雨がずっと降っていた。みずたまりは光りながらボツボツ揺れていた。
胸が痛かった。ゆっくりと世界はまわっていた。
のろのろ歩いた。イヤホンのむこうからサアサア雨のふる音が聞こえていた。桜はこんなにきれいなのにもう今に散る、葉桜になってそれからあとかたもなく。どうしてそんなに生き急ぐのだろう? 木蓮もとっくにくたびれ落ちて、ああ、そういえば沈丁花ももう香らない。わたしはまだスタート地点にたったばかりなのに。春の雨はきらいだ。
わたしはこの夜のことは忘れないだろうと思った。
雨あがりの濡れた夕方に、親友と共に歩いた帰り道のことを思い出した。並んで歩くだけで心地よかったあの時間のこと。
ハナミズキがこれから見ごろだろうか? だといいな。


 ああ、その場所はとてもうつくしいのだ。
 昔、冬の終りにそこをおとずれたことがある。いつなんどきもそうであるようにその日もまた、長閑なひざしに空気一帯がぼんやりとかすむようであった。
 桜の花片が夢のように降りそそいでいた。その色あいのように淡く。
 かと思えばそれは、桜の花ではない。私のてのひらの指先に冷やりと舞い降りるや否や、たちまち掻き消えてしまった。……雪だ。見上げると、はかなげに晴れわたった冬空の頂から、はらはらと雪が。
 晴れた日にちらちらと降る雪のことを風花というのだそうだ。まさしく風が花を散らすようであるなあと私はいたく心震えて、ぼう然とそれを眺めていた。私の熱いてのひらに、泡雪は躊躇なく降り落ちては溶けて、また降り落ちては溶けてゆく。積もることなく。そのうちに私はふと怖ろしい心地になってしまった。
 冬は終るのだなと思った。
 そうしてまた春が来る。春が来るとこの場所はよりいっそううつくしい。ますます現実味をなくし浮世離れした花園になる。
 しかしそれもまた一瞬のことで、世の摂理といったものにしたがってたちまち様相を変える。なにものも私を待たない。春というのはとりわけひどくて碌に味わう間もないままに過さる。それが怖ろしい。

 なんとも興のあることにはその日雪は積もったのだった。
 あれほど仄かに舞い散っていた風花は、時とともに牡丹雪となった。重厚な雪片は降って、降って、積もった。家の奥に引込んでいた私は、気晴らしに見に来た庭がまっしろに染め替えられているので面食らった。
 すあしに草履をひっかけて怖る怖る庭先に降りる。さくり、それからぎゅむと新雪を踏み潰すときの心地好さ!
 空は色味をうしなってどんよりとしていたが、雪はすでに止んでいた。
 庭の中ほどまで行くと桜の樹に行き逢った。
 春には幻のように花を咲かすが、冬の間は凶暴だ。ずっしりした幹から黒々と伸びる枝の有り様は、地面から怪物の獰猛な腕が突き出でているようである。しかしその一枝一枝にもまたかすかに雪が降り積もって、ふわりと花が咲いたようだった。
 私は根元に立ってじっと枝々を見上げていた。淡く降り積もる桜よりもはかない花々を忘れまいとして。

 冷やりと頬をかすめたなにかにはっとしてみると、再び雪が降り始めていた。その冬最後の降雪であったのだが、それにふさわしく、触れればすぐにとろけてしまうような粉雪だった。
 またも襲い来る怖ろしさと、それをはるかにまさるさびしさに、私はそろそろと口を開いた。溢れ出る熱い吐息にまぎれて伸びた舌先が、やがてひんやりとした花片をとらえた。
 私が初めて花というものを喰らったのはそのときである。

 
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