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彼女はとにかく変なやつで、俺が今までに出会ってきたやつらの中でも屈指の変なやつで、その意味不明な行動のうちの最たるものは次の行為である。
今日も一日ありがとう。そう言って別れ際にそっと俺のことを撫ぜるのが彼女の日課だ。中学生にもなって正直どうかと思う。
人気のない音楽準備室に俺と彼女はふたりきりだった。窓から差し込んでくる夕日で、狭くるしい部屋はあかく染まっている。部屋の両側を占拠する大量の楽器から、年季の入った木の床へと、長い影が黒々と伸びている。閑散としてさびれた夕方の空気が、ぼんやりと部屋中をただよっていた。
楽器を置きにきていた吹奏楽部員たちはついさっきいなくなったし、この部屋を常の練習場所としているクラリネットパートの部員たちも、とっくに片付けを終えて移動している。しかしそのクラリネットパートの一員である彼女は、さっきから俺の前を動こうとしなかった。俺の身体に手のひらをそえてじっとしている。触れられることにはもう慣れたけれど、その手が汗ばんでいるのは正直嫌だ。しかも彼女は何も言わないでいるから、こちらとしてはどうしていいか分からない。ここで「今日の合奏よかったな、上達したんじゃないの」なんて言ってやったら彼女は喜んで「ありがとう、先輩」なんて笑うのかもしれないが、あいにく、それはごめんだ。無理。そんなことを考えていたら彼女の唇がふるえた。
「あのさあ、楽器買いに行くよ、明日」
彼女は唐突に告げた。
彼女が新しい楽器を買うらしいことは知っていた。今までは学校に置かれているふるい楽器を使用していたが、とうとう自分用のものを買うと決めたらしい。どうせなら新入生の入部にあわせて四月にすればいいのに、なぜ一年生の三月という微妙な時期に買うのかは知らない。まあ、なにはともあれ、良いことではあるだろう。
良かったじゃん。そう言ってやっても彼女は表情ひとつ変えなかった。また黙りこくって俺のことをじっとみつめてくる。しかたがないので俺は彼女のこの妙なテンションに付き合ってやることにした。俺も彼女のことをみつめかえしてみる。
彼女の左側から傾いた日差しが降りかかって、うつむいた顔の左半分を照らし出す。二つにくくられた黒髪が橙色に透け、紺のセーラー襟が白い布地に深い影を落としている。顔の右半分はすこし翳っている。時々すごく短くなったりする前髪は今は結構伸びていて、彼女のくるっとした瞳にかかりそうだ。そういえば、彼女はいつも前髪を気にしていた。何度も何度も櫛を通したり、指先でいじったり。そのままでいいのに。切りすぎると落ち込んで、俺と接するときでさえうつむきがちになって、隣の先輩に背中を叩かれていた。
彼女が外見で気にしていることはほかにもいっぱいあった。靴下が下がってくるとか、スカートを怒られない範囲で短くしたいとか、唇がすぐに乾くとか。いつもレモンの香りのリップを携帯していて、しょっちゅう塗りなおしていたのもよく覚えている。ぜったい寿命縮むから俺といるときはやめろって言ったのに、聞かなかった。彼女はたいてい俺の意見を聞かない。そういえば彼女のせいで怪我をしそうになったこともある。
そんな彼女が腹立たしくて、意地悪をしたこともあった。わざと音をはずしたり、音程を狂わせたり。それが彼女の実力不足とみなされることぐらい、分かっていたのに。
彼女がふっと顔を上げたので俺の思考は途絶える。彼女はためらいがちに、けれどもまっすぐに俺を見た。
そういえば今日は、あれがまだだ。くるかな、と思っていたら、きた。
「今日も」
 そっと俺を撫ぜる指先は熱い。十二月ごろには冷え切った俺に触れるのを嫌がっていたっけ。
「今日も一日、ありがとう」
俺は例によって返事をしない。

すうっと夕日が冷えていく。とたんに部屋はうすぐらく翳って、早朝や昼間や夜、彼女たちのいないあいだに充満している、ものさびしい空気が降りてくる。彼女の髪からただよう俺にはよく分からない甘いにおいが、セーラーから香るやさしい柔軟剤のにおいが、レモンのリップのにおいが、埃っぽいふるびたにおいに掻き消されていく。さよならなのだ、と思った。これからまた長いあいだ、俺はこの部屋の片隅でじっと、次のパートナーがあらわれるのを待つのだろう。いや、運がよければすぐに新しいパートナーに出会えるのかもしれないが、俺がこの部屋にいた年数を考えると、微妙なところだ。それに、彼女とはもうこれきりだろう。もちろん今までに彼女のほかに俺を選んだ人間はたくさんいた。だけど……汗ばんだ手も、レモンのリップも、それからこの、片付けの際の訳の分からない儀式も、彼女だけだった。
 まあ、悪くなかったぞ、一年間。そう心の中で告げた瞬間ふってきたやわらかい感触におどろいた。かすかに、レモンの香りが戻ってくる。


「たぶん。」
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お酒が飲みたいすごく飲みたい浴びるように溺れるように飲みたいそして遭難してしまいたい。
飲んだことないけど。
嫉妬が絡み付いて消えない。真冬なのに寒い。若いのに肌がかさかさする。どろどろどろどろどろどろ
創作者にとって創作をやめろっていうのは死ねおまえなんか死んじまえっていうのとおんなじこと、否それよりもっとひどいことだってわかっていてていうかむしろそれを踏まえてわたしは先輩にやめたほうがいいですよっていった。先輩もう年だから潮時だから手遅れになる前にはやく貞操を捨ててギャザーとフリルがほどこされたベージュとブラウンの服を着て落ち着きなさいって、メールの最後の意味ありげな空欄とかわかれぎわのマフラーに隠された口元に好き好き大好きってにおわしてくる同僚と付き合って結婚しちゃいなさいって。先輩は真冬の雪原のどまんなかで突然火縄銃で打たれた白鳥みたいに、無理やり若作りしたみたいなだっさい化粧をほどこした目をバァンと見開いて、くすんだ色のルージュをこってり塗りたくったなんのセクシャルアピールもしてこないしわしわの唇をふるわせて、わなわな、わなわな、ふるえておった。
先輩はわたしのことをよーくかわいがってくれる人だった。だからわたしは先輩が好きだった。
だけどうとましくもあった。嫉妬のせいです。バッハの旋律を夜に聞いたせいじゃなくて、嫉妬のせいです。
「どうして」
先輩は声だけは若さをたもっていた。高くて澄んだきれいな響きのある声で、いっしょにカラオケにいったりすると流行りのアイドルソングをわたしよりじょうずに歌った。それにあわせてわたしがへったくそな運動神経のなさを剥き出しにするようなキレのないダンスを披露すると、先輩はカワイイカワイイと言って手を叩いて喜んだ。わたしは先輩が好きだった。先輩はいつだってわたしを引き立ててくれたから。先輩はいつだってわたしのことを褒めてくれたから。あるときから、父も母も兄も先生も誰もわたしのことを褒めてくれなくなったから、わたしは純粋にそれが……うれしくて……。
「先輩もういい年だから……もうだめだよ、先輩はおとなにならなくちゃいけないんだよ。完全に社会に溶け込んでどこにでもいるようなありきたりな主婦にならなくちゃいけないんだよ。もう自分だけのちっぽけな世界をつくりあげて仲間内に晒してよろこびをえるような生活は捨てなくちゃ」
「泣きそうよ」
「年増のおんなの涙なんか!」
「ちがうわ。あなたが」
わたし? わたしが泣きそうですって? ふん。
「いったいどうしちゃったの。一生、どんなに年をとったって創作はやめないでいましょうねって、約束したじゃない、ふたりで」
そーんーなーの口約束っていうですよオーライ? 
「泣かないで。なにかあったんでしょう? 聞かせて」
そうそう。先輩はいつもそう。聞いてあげるっていわないの。聞かせなさいともいわないの。聞かせてっていうの。
好きだったのよ。だけど憎かった。わたしははやくおとなにならなくちゃいけなかった。若さを誇っている場合じゃなかった。生きていなくちゃならなかった。自分の世界に閉じこもって生きてきた日陰女子は、おとなになっても恋人のひとりもできなくて、自分に自信がなくて、びくびく、びくびく働いて、おかねのために出勤して、家に帰ったらさっさと化粧を落としてだっさい部屋着に着替えてひたすら創作に打ち込んで死んだように眠り、週末も食うか眠るか創作するかで、そしてまたおもたいため息をつきながら月曜の朝の東京へ立ち向かっていく。そんなおんなにわたしはなりたくない。先輩みたいなおんなになんかなりたくない。なりたくないのよ!!!
だけど先輩は……わたしより、若くてかわいくておしゃれもしてるわたしより、ずっとすごいものを見ている。ずっとすごいものを生み出している。それにふれるとき、わたしは感動の余り息もできなくて、涙目になりながら、うちふるえているときもあった……。
なのに、なぜだろう? いつから許せなくなったのだろう?
わたしは、わたしはなにが許せないのか……。
ああ、つけまつげ取れた。
「あなたはあなただけなのに、受け入れることができないのね」
「思春期とっくにすぎたのに」
カワイイは作れる? じゃあ、作ってよ。わたしのために作って。
それで先輩は、年齢におうじた人生をあゆみなさいよ。そうしたらわたしはきっと、安心して創作をやめられるから。それは死ぬこととおんなじだ。



そのころの俺は、歩く辞書になりたかった。それですべて事足りるのなら、よかった。生きてゆくために。社会と対峙するために。大人になるために。
変わっていくことが怖かった。だけど同時にそれをのぞんでもいた。じたばた悩んでいるうちにおそろしいほどの月日が過ぎた。時は止まらなかった。そしてその流れは早かった。容赦がなく、絶対的であった。咲き始めた桜をハルアラシが散らし、色づき始めた椛を秋雨が枯らすように。
このままでは大人になれないと思っていた。精神的にも外見的にも。じぶんにはなにか社会のなかで生きてゆくための能力といったものがいちじるしく欠けているように思われた。このままではいけない。取り残されてしまうだろうと。しかしどうしたらいいのかわからなかった。時ばかり過ぎて年齢ばかり増えて、外見をいくら取り繕っても中身はずうっと、幼い子供のように未熟で、でもそれは通用しなくなってきていた。まだ子供だから、はそろそろ無能の言い訳だった。
だから勉強をした。
あらゆる分野のあらゆる知識を、めちゃくちゃに詰め込んだ。狂ったように本を読み、著名人の講演会が催されれば足を運んだ。俺は、辞書になりたかった。誰かがなにかを知ろうとするときに、俺に問いかけてくれればすぐさま答える。手早く、正確に、求めるものを。ただ、知識が欲しかった。勉強は、機械的で、単純だった。だからそれほど苦ではなかった。けれど満足感をえられるのは一時だけで、日に日に増えていく難解な言葉も、複雑な定理も、公式も、歴史も、なにひとつとして俺を安心させてくれなかった。
小さな経験の積み重ねが自分を成長させることを、まだ、よく知らないでいた。
またたくまに季節は過ぎ去った。いかにも思春期ですというような悩みをかかえ、焦燥ばかり募らせて、モラトリアムの危機に瀕しアイデンティティを渇望しはじめてから、二回目の春が来た。
例年よりも少し肌寒い、桜の季節。
高校三年生の新学期。
一度目の別れは、クラス替えのときに訪れた。
自分は文系で、幼なじみは理系。自分は私立大学への進学を希望していて、幼なじみは国立。自分は一組で、幼なじみは七組。自分は二階の左端の教室で、幼なじみは三階の右端。俺は朝の授業前に行われる特別講義に参加し、塾にも通い始めたから、打ち合わせるわけでもなくいっしょになることが多かった登下校の時間も、ずれた。
それだけの話だった。
でもそれは、物心ついたときからずっと近所に住み、小学校も中学校もずっと同じクラスだった俺と幼なじみにとっては、たしかな別れであり、打撃だったのだ。そう思っていたのは、俺だけだったのかもしれないが。

――記憶が回帰していく。激しい春の突風と、ひそやかな雨の音を立てて。

数年前。クラスが別になり、登下校の時間がずれ、当たり前のように隣にいた存在が、いつのまにか遠のいていたことに気がついたこと。学校が決める小さな集団のくくりがなければそばにいられないような関係ではないという、理由のない確信が、少しずつ薄れていったこと。
連日降り続いた雨。しずかな雨音のなかで行われた自己紹介。
名前をからかってくるやつがいなかったこと。
集会があるたびに、気がついたら理系クラスのほうを見やっては、幼なじみのすがたを探していたこと。先生の話の最中に、うしろから突っついてきてはくだらないことをささやいてくるやつがいなくて、なぜか落ち着かなかった。
廊下ですれちがっても、互いの友人との会話に夢中で、目が合うことすら減っていったこと。
手に取るようにはっきりと思い出せる、胸に空洞ができて時折ひゅうっと風が吹いていくような、一抹のさびしさ。
小さなずれが、じわじわと大きな亀裂になってきていることに、なんとなく気づいていた。けれど、どうしようもなかった。大人になるためのすべがわからないように、どうしたら元に戻れるのか、そもそも元に戻るべきなのか……俺はどうしたいのか。わからなかったのだ。
わからないことがあまりにも多かった。誰にも訊けなかった。本を読んでも、偉人の話を聞いても、どこにも答えはないように思われた。
すきま風のようなさびしさはずっと続いた。
始業式のときにはつぼみが多かった遅咲きの桜も、ようやく満開になったころ。新しいクラスに慣れ、友人関係もそれなりに良好で、勉強に精を出して……新しい学校生活は順調に滑り出していて。
――俺は偶然にも、幼なじみとふたりで過ごす時間を、再び取り戻したのだった。
それは、ごくわずかな時間だった。咲き誇る桜が春の突風に吹き散らされ、一瞬のうつくしい桜吹雪となって、散っていくまでの。
ほんの少しの、あたたかったり冷たかったり、近かったり遠かったりした、時間。ふたりで共有したちっぽけな秘密。好奇心をくすぐるこまやかな発見。鉛筆が、真っ白いノートを七ページだけ、埋めた。
めまぐるしく過ぎ去ろうとする世界から切り取られた、薄暗くて狭い部屋で。余計なものには触れずに、たいせつなものを壊さないように、ふたりで過ごした、ひそやかな記憶。
日差し。沈黙。風。ハナミズキ。肌寒さ。雨。会話。独特の匂い。記録。奇妙な時間。
となりにいたこと。
桜と同じようにすぐに舞い散ってしまったのだけど。


レコードに針を落とすように、彼の指が胸の真ん中におりて、記憶の底をやさしくひっかく。指先の熱が肌に溶けて、感情の波が体中をあたたかく満たしていく。
なぁ、大人って、なんだ? 大人になるって、どういうこと。
答えは……。

秘密の部屋の鍵さ! あまねく暗号の鍵さ!
血みどろの愛でしるされた140文字の宣言241回目のモーニングコール鳴らない電話
シリアルコード抜いたの誰だ 君か! それとも店長か!
空想旅行の中で何回も殉死した店長とギタリスト/ひとりの僧侶が生きてゆくために
僕の爪あとをみて、イタイイタイと泣いて、手を叩いて僧侶を賛美して
僕はただ遺したいだけだ、しってほしいだけだ、認めてほしいだけだ
僕の爪あとを 空をごらんよ世界ってやつはうつくしいんだ
ひもすがら僕の中にふくれあがる140文字をはみだした紀行文、そうさ犬歯物語さらした日記
怖いよ!僕だって!だけど知ってくれ
僕は遺すために誰かの心臓にえぐったあとを爪あとを遺すために
渋谷駅改札キセルして宇宙からのビームたち交わしながら白い病室へ
創造主たちにかこまれていくつもの世界届かないと知って
きれいにととのえた爪で荒削りの音楽で
かわいた言葉と擦り切れた絵の具で僕はそれでも触れたくて知りたくて
誰かの心臓をひっかきたくて
オピウムをふるって作ったお菓子さ! 群雲を見上げた平成の世の砂糖さ!




選り好みされた生ぬるいものに囲まれたせまい世界はここちよくて、うつくしいものを生むけれど、それはそれだけでしかない
なにも揺さぶることができない
すぐに消え去ってしまい、なにも変えることができない、なににも影響をあたえることができない
そのゆりかごから抜け出して、あらゆる危機にさらされ、新しいよろこびを知らなければ、現実に生きている人々の、誰にも、なんにも、与えたり、揺さぶったりすることができないだろう
完成されたものはうつくしいけれどそれだけなのだ。それだけで終わっている。それ自身だけで完結している。
そこから先にはなにも生まれることがない。
おまえはそんなものを生み出したいのか。
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