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はげたネイル/女子力かっこわらい/別れるのに/髪を巻く/場末のマック/わたしみたいな貧乏で安っぽい高校生が別れ話をするのにはぴったりに思えた/まずい/先っちょがはげてるのに気がついた/苛立ち/怖い/角砂糖/呼び止める/十二月は嫌いだ/クリスマスはたいていひとり

と、書きたいことは上でほぼ全部なのに、行き着くまでぐだぐだと文が続いて、本当に書きたいことは書けない。いみわからん


落雷/大雨/かき消される/叫ぶ/伝えられないのは同じ/空振りする喉/なにか言わなくては/引き止めなくては/焦燥/せつない/なんだか胸が苦しい/もういいや/乱暴に引っ張る/傘に入れる/あのときはそれができない/いまはできる/目を見開く/笑う
ひとつまえのも書きたいことは決まってるのに
雨の描写たのしかったからいいけど

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 凍えるような寒さだった。わたしは使い古した毛糸のピンクのマフラーに顔をうずめた。ほそくかたくなった毛糸はざらざらしてすこし痛かった。
 灰色の空からはいまにも雪が降り出しそうだった。だけれど、降らないだろうなあ、とわたしは思う。去年も、この地域では雪は二度しか降らなかった。しかも積もったのは一度きりで、午後にはただの薄汚れた水へと姿を変えた。さびしいことだ。
 かしましい明かりに導かれるようにして、わたしはマクドナルドに入っていった。
 店内の人影はまばらだった。わたしはそれほど待たされることもなく、レジでアップルパイと、チョコレートのシェイクを買って、それを載せたトレイを持って二階に上がる。禁煙席のいちばん奥に波多野ちゃんはいた。四人がけのテーブル席をたったひとりで陣取っている。

「お待たせ」

 トレイを波多野ちゃんの向かいに置き、マフラーを取って、コートを椅子の背にかけ、その上にたたんだマフラーを重ねた。「うん」と波多野ちゃんは返事をした。いつもの、白地に黒で彼の好きなバンドの名前がプリントされたTシャツと、薄いグレーのカーディガン。彼の前ではおそらくはブラックのコーヒーがほかほかと湯気を立てていた。波多野ちゃんのほっそい体には不似合いな、ごつぅい新作のハンバーガーを片手に持っている。ああ、らしいなあ、と思った。わたしはますます波多野ちゃんを好きになった。別れ話をするくせに。

 椅子に座って、シェイクを一口飲んだ。波多野ちゃんもコーヒーをすすった。わたしはなるべく彼と目を合わせたくなかった。念入りに化粧はしてきたけれど彼にわたしの顔を見られたくなかったし、彼の顔をみたくなかった。ばかみたいにゆっくりとストローから唇をはなす。グロスがすこし取れたなあと思った。
 うつむいたまま、トレイの上の紙ナプキンにそろそろと指を伸ばした。泥棒するみたいな慎重さで。ナプキンで唇をぬぐうとやっぱり、すこしだけあかくなっている。それをわざとらしいほど丁寧にたたんで、バッグに入れた。
 まだ目を合わせないまま、アップルパイの箱を開ける。かじろうとして、指にふれた予想外の熱さに驚いてやめた。波多野ちゃんが笑った気配がした。春の花のつぼみがほころぶような、やさしい気配だ。胸がきゅうきゅう締まった。……好きだ好きだ好きだ。

「別れようって」

 波多野ちゃんの声はいつもどおりやわらかくて透き通っていて、ふわっと明るくて、まぶしい朝日で満ち満ちた早朝の空みたいだ。

「あれ、メール。本気?」

 言わなくちゃ。そうだよって。
 そう思って開いたグロスとれかけの唇がわなないた。上瞼のうらっかわがじんわりと熱く、うるおってきた。

「……本気だよ」

 わたしの声は小さくて低くて、慢性的なマクドナルドの喧騒に呑み込まれてしまう。自分ですら聞き取りにくいその声を、波多野ちゃんが聞き取れたとは思えなかったが、彼はへぇ、そう、とまるで興味なさげに相槌を打った。彼は音楽をやっているひとだからとても耳がいいのかもしれないし、わたしの暗い、罪人みたいな表情で察したのかもしれない。とにかく彼は、四ヵ月半付き合った彼女からの別れ話なんて心底どうでもいいみたいだった。態度は。本心は知らない。


 そのマクドナルドは、たしかちょうど一か月後ぐらいになくなったのだった。

「いつか、君の歌を書くよ」
「波多野ちゃんの歌はむずかしいから、きっと聞いてもわかんない。あたしの歌だ、って」
「……そうかなあ」
 波多野ちゃんは笑った。



書きかけ@挫折
なまものって鍵かけなきゃだし別サイトつくんなきゃだからめんどうだからやらない(結論)


 男は黙ってわたしを見下ろしていたかと思うと、すうと右目を細めた。にやりと吊り上がった唇がひらく。
「……何だァ。俺がそんなに珍しいかい」
 低い声音に空気が震えた。わたしは反射的に、傘を握り締めた。
「す、すみ、ま、せん」
 ふるえる唇でなんとか謝罪を搾り出す。心臓が縮こまったようになって、走って逃げ去りたいのに、足が石のように固まってしまった。

 街は湿った雨の気配で満ち満ちていた。空は薄汚れた白に染まって、見慣れたビルや道路や街路樹も薄暗く翳っていた。息苦しくなるような、蒸し暑くて濃密な雨の匂いがした。
 右頬がひやりと濡れて、指で触れてみると濡れている。用意してきていた折り畳み傘をひらくと、計ったように雨が降り出した。最初はぽつぽつと途絶えがちに、ついでバラバラバラ、バラバラバラ、と、不規則な雨粒の束が乱雑に傘をたたく。夕立が、来た。
 いつもは陽光のもと、道端できらきらとかがやいている夏の植物たちも、今日は生気を失ったように暗く染まっている。うなだれた灰色の葉や、しおれかけの萎びた花が目に付く。そんななか、朝は閉じていたオシロイバナだけが、紅紫の花を毒々しく開かせて、灰色の景色のなかに色濃く浮かび上がっていた。
 帰り道の坂を早足で下っていくと、なつかしい制服を着た後輩の中学生たちとすれ違った。色とりどりの傘をさし、お喋りに夢中になっている女子たちのうしろを、傘を忘れたらしい少女がひとり、曇った表情で走り抜けていった。真っ白いセーラーは濡れて肌に張り付き、膝丈の長いスカートは少女を走りにくくさせている。しめった前髪は束になって額にへばりついていた。
 お喋りしている少女たちとすれ違うと、そのまた後方から、また傘のない少年がひとり、とぼとぼと歩いてきた。こちらは諦めたようにうつむいて、だるそうに歩を進めている。

 雨の気配が、よりいっそう濃くなった。
 だんだんと強まってきていた雨脚が、弾けたように加速しだした。いよいよ、本降りのようだ。どしゃぶりだ。一度本格化した雨は堰を切ったように激しくふりつづけ、水煙で道の先が見えづらくなる。傘の影から飛び込んでくる雨が顔やからだに吹きかかって、わたしは顔をしかめた。歩くたびローファーがびしゃびしゃと音を立て、跳ね上がった水滴が靴下を濡らす。
 道の先から、赤い傘をさした男が歩いてきた。
 最初は霧がかったような視界のためによくわからなかったが、近づくにつれて、その男が異様であるのがわかった。その男は赤紫の着物を着ていて、赤い傘は番傘なのだった。
 このご時勢に祭りが在るわけでもなしに和装、あんまり珍しいのでついまじまじと見つめてしまう。深い赤紫色はさきほど見た毒々しいオシロイバナを連想させた。
 顔が見えるほどまで近くなると、わたしは思わず息を呑んだ。異様なのは服装だけではなかった。男はそのうつくしいかんばせの、左目のあたりを、包帯で幾重にも覆っていたのだ。
 見てはいけないものに遭遇してしまった、と思った。幽鬼のような雰囲気のその男は、現代社会の街中において明らかに浮いていて、不気味だった。わたしはおそろしくなった。遠くを見つめていた男の視線がふいにこちらに移り、視線がかみ合うと、わたしは一瞬息ができなくなった。
 ――怖かったが、とてもきれいだった。
 男が下駄をはいた足をぴたりと止めたので、わたしの足も止まってしまった。
 

そこに、彼がいた。
容赦なく照りつける日差しのもと、熱を持っていて熱くはないのか、さびれたフェンスに平然と片手をかけて、ぼうっと線路を見つめていた。
蝉が遠くでわめている。フェンスの脇にはだれが植えたのか、小ぶりな向日葵が並んで太陽を見上げていて、その隣では、名前の分からない白い花が涼やかに咲いていた。フェンスの網目には濃い緑色のツルがからまって、赤紫や青や、鮮やかな原色の花々が、生き生きと咲き乱れている。

 じりじりと、アスファルトが焼けつく音がする。蝉の声が波のように近くなったり、遠くなったりする。

 少年は制服姿だった。夏服のワイシャツの半袖から、日差しに屈することのない白い腕が伸びて、片方はフェンスをつかみ、もう片方はだらんと垂れていた。このご時勢にこの暑さ、シャツの裾をだらしなく垂らす男子生徒も多い中、彼のシャツの裾はきちんとスラックスの中に納められ、かっちりしたベルトで締められていた。彼の後ろ、アスファルトのゆるい坂道の上のあたりで、陽炎がゆらゆら揺らめいていた。
 ふいに……、少年が、こちらを見た。
 白い光にぼんやりと霞む、真夏の昼下がり。知らないはずなのに、どこかなつかしいような景色。その中に溶け込んでいる、ひとりの、時代を間違えたような少年。

 汗がひとすじ、男のこめかみをつたっていった。それを手のひらでぬぐいながら、男はゆっくりと、引き寄せられるように、少年のもとに向かっていった。


「こーんなところに突っ立って、何してんの? 熱中症になんぞー」
「……先生」
「何、電車スキ?」

 いつも通りの軽口で、景色の中の少年に話しかける。彼は問いかけには答えず、近づいてきた男の目を気だるげに見つめた。

 駅のほうから、金属がきしむような甲高い音がした。電車が、動き出したようだ。

 がたん、がたんがたんがたんがたんがたん……。

 車輪の音が、だんだんと早くなる。電車が近づいてくる。

「――大事な、」

 少年は静かに口を開いた。その直ぐ後ろに、日差しをまぶしく照り返しながら、電車が迫ってくる。

「大事な、人が」

 ごう……っと空気を裂いて、電車がフェンスの中を通り過ぎていった。少年の長い髪が風にふわりと舞った。原色の花びらが数枚、はらはらと散って、道端に落ちていった。
 
「電車に乗ったって行けない場所に……」

 小さくてかき消されてしまいそうなのに、水のようにひんやりした少年の声は、男の耳にしっかりと届いていた。




白昼の夢
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